「親の面倒を見ているのに自分が親の金使って何が悪いの?」
「事故や近所の方とトラブルが起こると嫌だからね…外出やご近所さんとの交流を禁止にしています」
認知症高齢者を介護する家族の発言で「これって虐待かな」、「どう対応すればいいんだろう」と悩んだケースはありませんか?
身体にアザがあれば虐待とわかりやすいけれど、直接的な侵襲がない場合は判断に迷いますよね。とくに閉鎖的で家族関係が見えにくい家庭であるほど、SOSの発信に気づくのが難しいものです。
そこで今回は、「あの時もっと早く気づいてあげればよかった」と緊急事態を防ぐために、訪問時に使える“虐待の種類・早期発見チェックリスト”と“虐待の程度・対処方法”についてお伝えします。
虐待といっても種類や程度は各家庭さまざまで、状況も刻一刻と変化します。まずは現状を把握するために、“虐待の種類”と“早期発見チェックリスト”を確認しましょう。
「虐待の種類は5つに分類できるので、具体的にイメージしやすいようチェックリストで紹介します。
1. 身体的虐待
2. 介護・世話の放棄
3. 心理的虐待
4. 性的虐待
5. 経済的虐待
上記の5種類の虐待の発見のための“早期発見チェックリスト”は、以下の通りです。
□ あざや傷がある
□ あざや傷の説明を隠そうとする
□ 人との交流を禁止されている
□ おびえた表情、「怖い」「怒られる」等の発言
□ 「痛い」「家にいたくない」「殴られる」等の発言
□ 支援をためらう、サービスの拒否
この他に、手足を縛る身体的拘束も身体的虐待に含まれます。
□ 室内や衣服が不潔(異臭、極度な乱雑、暖房の欠如、汚れたシーツ)
□ 身体が不潔(異臭、汚れた髪、のび放題の爪)
□ 食事がない
□ 医療やサービスを受けていない
ネグレクトは、意図的であるかは問われません。
事情があって介護できなかった場合も、高齢者が劣悪な状態であるなら虐待といえます。
□ 急な体重増減、やせすぎ、拒食と過食
□ 「ホームに入りたい」「死にたい」等、自分を否定的に話す
□ 不眠
□ 家族が「早く死んでしまえ」など否定的な発言
この他にも、家族が「ばか(のろま)」といった名前で呼ぶ、大声で叱る、「施設に入れるぞ」と脅すのも心理的虐待に含まれます。
□ 生殖器等の傷、出血、かゆみを訴える
□ おびえた表情、怖がる、人目を避ける
□ 話すことをためらう、援助を受けたがらない
夫婦間でのドメスティックバイオレンスも虐待に含まれます。
□ 「お金をとられた」、「年金が入ってこない」、「貯金がなくなった」等の発言
□ 資産と日常生活に落差がある
□ サービスの利用負担が突然払えなくなる、サービス利用をためらう
金銭管理を自分の子供にまかせる高齢者もいますが、日常生活に支障がでる場合は経済的虐待とみなされます。
虐待予防・発見チェックリストは、下記を参考にして作成しています。 ダウロードが必要な方はこちらをクリックしてくださいね。(2019年8月現在)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/understand/teido/pdf/checksheet.pdf
出典)首都大学東京 副田あけみ教授作成の様式を一部修正 東京都老人総合研究所作成
虐待の種類と早期発見チェックリストの次は、“虐待の程度”を3つのレベルに分けて把握します。
1.緊急事態
生命に関わる重大な状況を引き起こしており、一刻も早く介入が必要。
2.要介入
放置しておくと心身に重大な影響があるので、本人の自覚の有無にかかわらず介入が必要。
3.要見守り
心身への影響は顕在化しておらず、虐待か判断に迷う状態。
そして、「緊急事態」「要介入」「要見守り」の対処方法については、以下のようになります。
|
程度 |
対処方法 |
|
緊急事態 |
状況に応じて警察や救急に連絡 ショートスティなど緊急避難 |
|
要介入 |
事業所における対応マニュアルの整備 介護保険サービスの積極的利用 専門職や区市町村のネットワーク形成 |
|
要見守り |
ケアマネジャーによる家族への助言や情報提供 介護サービスの見直し 地域の見守り声かけ |
東京都パンフレット「高齢者虐待防止と権利擁護」を参考、一部修正
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/torikumi/doc/pamphlet_2009.pdf
最後に認知症と虐待の関係を考えるポイントとして、“認知症高齢者の虐待が多いワケ”と“男性介護者による虐待が2/3を超えている”ということをお伝えします。虐待されている約7割の高齢者には認知症の症状がありますが、これは介護者がよりストレスフルな介護困難場面に遭遇しやすいからです。
「飯を食わせてくれない」と愚痴る認知症の父に、「ご飯はいま食べたばかりでしょ!」と強くあたったり無視をしたりと、介護者が疲れ果てている場面は想像しやすいでしょう。また、介護期間の見通しが立たない不安を抱え、コミュニケーションの取りにくさにイラ立ち、ときには自分自身の老後を投影して恐怖を抱くこともあるでしょう。このように認知症高齢者の虐待は、家族の身体的疲労だけではなく、精神的負担の大きさも関係しています。
在宅介護における虐待者の続柄は、「息子」がもっとも多く、次いで「夫」、「娘」の順です。つまり“男性介護者による虐待が、2/3を超えている”という状況です。これには、①家事や介護に不慣れで負担を感じやすい、②地域と関りが薄い孤立、③失業中で親と同居している、④長年の親子関係の悪化、などの問題が背景にあります。
虐待は過去最多で更新し続けている現状があり、虐待が疑われるケースの10%ほどは命に危険がある緊急事態といわれています。認知症ケアにおいてナースが働きかける対象は、患者本人だけではなく家族にも十分な配慮が必要です。
家族の自覚のなさが虐待を助長することもあるので、未然に防ぐためにも家族の認知症への理解を深め、介護負担を軽減できるようサポートできるといいですね。
【参考】
「高齢者虐待防止の基本」 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/1.pdf
2019年8月アクセス
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認知症は早期発見が大切ですといわれていますが、もし私が突然!テスト形式で、しかも密室で「認知症の検査を受けますよ」といわれたら。きっと緊張したり、「早く終わってほしいな。」「やりたくないな。」と感じることでしょう。
それと同様に高齢者も同じ気持ちです。そのため認知症の検査で最もナースが意識しておくことは、対象者の精神的な配慮になります。
検査時の「不安な気持ち」や「疲れ」に気を配りながら適切な質問ができる5つのポイントをご紹介いたします。
高齢者の中から認知症高齢者をスクリーニングする検査のことです。
43年前に長谷川和夫先生が開発し、現在は1991年に改訂された「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R:Hasegawa dementia rating scale-revisedの略)」が、日本の病院や高齢者施設などで広く使用されています。
検査内容は9設問からなります。「今日は何年何月何日、何曜日ですか?」といった記憶に関する質問に回答してもらい、認知症か否かを判定します。
判定は30点満点中20点以下が認知症の疑いがあると考えます。
また総合点の結果のほかに、どのような認知機能が低下しているかも把握できるようになっています。
・問1 名前の見当識 自分のことや、自分が置かれている状況認識をみます。
・問2 日付の見当識 目的やスケジュールなど計画を立てられるかなどの遂行機能もみます。
・問3 場所の見当識 これが答えられないとき、不穏やせん妄などの症状も合わせて注意してみてください。
・問4 聴覚性記憶 耳から聞いた新しいことを覚える能力をみます。サイレンがきこえてもサイレンと分からなくことと関連します。
・問5 知的能力 順序立てる能力をみます。料理をつくることなどと関連します。
・問6 記憶と作業 記憶を保持する能力と並行して作業ができるかをみます。
・問7 聴覚性記憶 記憶を保持する能力と物事を結び付ける能力をみます。
・問8 視覚性記憶 眼で見た新しいことを覚える能力をみます。道に迷いやすくなったり、同じものを買ったりすることを関連します。
・問9 言語の流暢性 知識量ではなく、言葉のスラスラでてくる程度をみます。
メリットは、ベッドサイドで行うことができ、5分程度の短時間で評価できます。
デメリットは、言語的な質問でやりとりしますので難聴の方や失語症の方はハードルが高いです。また動作性の認知機能は評価できません。
改定 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)(表1)
http://www.medica-site.com/special/img_special069/hasegawa.pdf
「認知症の検査をします。」といきなり言うと高齢者は構えてしまいますので、「最近物忘れが気になったり、不安なことはありませんか」と前置きをしてから、長谷川式スケールの説明をして了解を得ましょう。
終了時も、「疲れましたか?」など世間話をして、検査の嫌な気分のまま終わらないようにしてあげましょう。
また人によっては、「こんな簡単な質問を聞いてきてバカにしているのか」と自尊心を傷つけたり、そもそも質問されること自体が苦手な方もおられます。
実施頻度は、リハビリ目的で何度も行わないことです。年に1回程度かもしくは特別にしなければならないときのみです。
テストを受けさせられるというのは、本人からすればストレスになりますので、ご本人の体調がよく、他の人がいない静かな場所で行うのが良いです。
数値を単独でみるのは誤解のもとになりますので総合的な判断が必要になります。
結果は本人の教養や生活環境で左右されますし、体調が悪い時、鬱っぽい時、せん妄状態などでも点数が低い場合があります。
認知症の検査は、一般所見、神経学所見をとり、血液・画像検査をします。また他の疾患(甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、鬱病)などが隠れていないかなど総合的にみていきます。
また長谷川式認知症スケールは、30点満点中20点以下を認知症の疑いとしますが、「21点だから大丈夫。20点以下は認知症です。」と100%区別する境界ではありません。あくまでも判定精度がもっとも高いという意味で理解されてください(感度93%、特異度86%)。
設問 5は計算問題です。
正しい質問の仕方は、「100 引く 7 はいくつですか?」と問い、「93」と答えが出たら、「それから7を引くといくつでしょう?」と聞きます。
間違った質問の仕方は、「100 引く 7 はいくつですか?」と問い、「93」と答えが出たら、「93から7を引くといくつでしょう?」と聞きます。
この質問は計算ができるかどうかを知りたいのではなく、「93」という数字を頭の中で記憶保持し、そして「7を引く」という作業を同時に並行してできるかどうかが知り得たい情報になります。
設問6は数字の逆唱です。
はじめに「私がこれからいう数字を、逆から言ってください1 2 3」と伝えます。
数字は約1秒の間隔をおいて伝えて下さい。言い終わったところで逆から答えてもらいます。
時々、すごく早口で数字を「123」と伝える方がおられますが、これだと一つのまとまったワードで頭の中に入ってしまい意味合いが変わってしまいます。
施設や病院には、すでに小道具セット(鉛筆、カギ、スプーン、歯ブラシ、腕時計)が準備されているところが多いかと思います。
しかし高齢患者の中には、認知症とは関係なく「普段使わないから忘れた。」という方々もおられます。
施設に入るとカギは不要ですし、総入れ歯の方は、歯ブラシを使用していないこともあります。
すでにある小道具セット以外のものを使用してもよいですので、テストをうける方の馴染みのある物品が良いかと思います。
ただし注意点は、消しゴムと鉛筆など連想させるものは避け、関連性のないものが適しています。またタバコなど嗜好品は人によって集中力を欠きますので避けた方がよいです。
認知症は早期発見が重要で、長谷川式スケールは判断材料の大切な一つになります。
早期に認知症とわかると、治療により進行を遅らせることができます。その分、ご本人の意志を尊重する生活を延長し、家族や介護者にあらかじめ心積もりする知識や準備時間が作れます。
検査結果は「この方は認知症です。」と選別します。しかし、結果の目的を判断材料としてだけでとらえず、認知機能の弱み強みをみつけて、家族を含め「より豊かな生活をするために」必要な情報として活用されてください。
下記の文献やサイトを参考に記事を作成しました。
認知症疾患治療ガイドライン2010 – 日本神経学会 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)http://www.medica-site.com/special/img_special069/hasegawa.pdf
]]>看護師はそんな認知症患者さんへの関わり方も十分心得ているかと思いますが、それでも対応に四苦八苦してしまう症例として「暴言・暴力がある患者さんへの関わり」が挙げられるのではないでしょうか。
認知症の症状として、記憶障害・見当識障害・徘徊・妄想・せん妄・幻覚・鬱・睡眠障害など様々ですが、その中でも暴言・暴力のある患者さんに対しては、治療に必要なケアも拒否が強く、全く何もさせてもらえなくてどうしたら良いのか・・と途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
認知症の種類によっては、このような症状が出やすい場合もあるので、完全に攻撃性を失くすことは難しいかもしれませんが、看護師や家族である介助者の対応や、ちょっとした環境が症状を悪化させていることも多いのです。
そこをしっかりアセスメントして関われば、介入の糸口も見えてくると思います。暴言・暴力のある認知症患者さんへのケアについて解説していきます。
大きく種類は4つです。それぞれ疾患によって特徴があります。患者さんがどのタイプの認知症なのかを把握し、出現しやすい症状を理解しておくことは、患者さんへのケアを考える上で重要です。
側頭葉や後頭葉を中心に神経細胞の変性・消滅が起こります。「見当識障害」やもの忘れなどの「記憶障害」や「妄想」などが出現します。判断力の低下から介助の際に何をされるかわからないといった不安感や、できないことが増えてくると、できない自分への怒りから暴力行為につながりやすい。
脳梗塞や脳出血によって起こる認知症です。脳の障害されている場所によって症状が異なります。できることとできないことが比較的はっきり分かれます。性格の変化や、感情のコントロールができなくなって、感情の起伏が激しくなったりすることが暴言や暴力につながりやすい。
大脳皮質の多数の神経細胞内に「レビー小体」という特殊な変化が現れます。一見アルツハイマー型認知症と似ています。特徴的な症状として、アルツハイマーと似た認知障害に加えて、パーキンソン病に似た動作やバランスの悪さ、幻覚(幻視・幻聴)などが出現します。幻覚による恐怖感が暴言・暴力につながりやすい。
前頭葉と側頭葉の機能障害が攻撃性へと繋がりやすく、暴言・暴力は高頻度に出現します。
認知症の種類によって攻撃性は出現しやすくなりますが、次に述べるような要因も大きく関係してくることがあります。1つずつ見ていきましょう。
多くの場合、コミュニケーションが十分に取れていない時に起こりやすいです。コミュニケーションがうまくとれず、自分の思っていることがうまく伝わらないと不安になりそれが暴言や暴力行為につながることがあります。
スタッフ間で、どのようなケアの場面で起こりやすかを検討してみましょう。食事や入浴、更衣の場面などある一定の介助の際に起こるなら、その際の声かけや介助方法が不十分ではなかったか振り返ってみましょう。
認知症は、疼痛、不眠、便秘、掻痒感など身体の苦痛をうまく伝えることができず、その不快感を暴言・暴力といった形で表現してくることもあります。
短気で怒りっぽいといった元の性格が認知症によってより強く出てくることがあります。
介助者との信頼関係が築かれていないことで、不安感から攻撃性につながることがあります。特定の職員が介助にあたると暴言・暴力行為が出現するといった傾向がないかよく観察してみましょう。
入院による環境の変化も認知症患者によってはストレスになり、それが暴言・暴力につながることがあります。入院前は自宅でどのように過ごしていたのか、生活パターンはどんな風であったのか情報を取り直してみまよう。
観察ポイントにあるような点に注意して、要因がないかを探ってみましょう。観察ポイント①にあるように、介助の方法は重要です。
特に、患者さんのペースを守ることです。認知症患者さんは、理解力や判断力の低下から介助者の言っていることがすぐに理解できないことがあります。ゆっくりと時間をかけて説明し、決して看護師のペースで焦らせてはいけません。必要だからといって、患者さんの意に反するようなケアを押し付けたりすることも禁物です。普段の何気ない介助の中でこのような場面がないでしょうか。
また、観察ポイント②にあるように、患者さんの身体症状には常に気を配りましょう。何も言わないから苦痛がないのではなく、うまく訴えることができずにいることも多いのです。苦痛が軽減されることによってストレスも減って暴言・暴力が落ち着くこともあります。苦痛症状があるなら、それを軽減させるようなケアを取り入れてみましょう。観察ポイント④の人間関係もよくある要因です。
信頼関係を築くには時間もかかりますが、まずは介助する人を変えてみるのも良いでしょう。そして、環境調整も重要です。入院によって自宅と環境が違ってくることは仕方のないことですが、生活パターンの変化についていけないことも認知症患者さんにとっては大きなストレスです。
家族にどのように自宅で過ごしていたのかを聞いてみましょう。できるだけ普段の生活パターンに沿ったケアを考えてみましょう。何か日課としているような日常生活で気分転換が図れるような趣味があれば、可能な範囲で入院生活に取り入れていくことも良いでしょう。
暴言・暴力行為を起こしている最中は、できるだけ刺激をしないようにします。落ち着くまで、少し距離を置いてそっと見守るようにしましょう。介助者に危害が加わることもあるので、介助者の安全を守ることも大事です。一人で対処しきれない時は複数で関わることもあるかと思いますが、あまり多くのスタッフで取り囲んだりすると余計に興奮してしまいます。
また、ベット周りに刃物などの危険物があると自傷行為や他人を傷つけてしまうこともあります。あらかじめ危険物は置かないようにしましょう。また、薬物の使用も考慮されることがあります。しかし、薬物だけに頼るのではなくあくまで上記のような関わりをした上で薬物も効果的に使用していくことが大事です。
患者さんの安全を守るという点から拘束をしたりすることもあるかもしれませんが、症状を悪化させることが多いので安易に行ってはいけません。また、患者さんの訴えを無視したり、反抗的な態度で言い合ったりすることも余計に興奮させることになるので控えましょう。
観察ポイントにもあるように、まずは要因を見つけることが重要です。暴言・暴力行為につながる要因は、同じ認知症患者でも、個々の性格や生活背景や今まで生きてきた環境等によって違ってきます。看護師は、認知症患者さんが抱えている不安を十分理解する姿勢を常にもってケアにあたる必要があります。
]]>また、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患すると予測されています。現在の医療現場でも、認知症を患っておられる患者さんと関わる機会は多いのではないでしょうか。
そんな認知症の患者さんに対して実践されてる「バリデーション療法」を皆さんはご存知でしょうか?今後の超高齢化社会において、さらにその必要性や役割が期待される「バリデーション療法」について解説していきます。
バリデーションとは、1963年にアメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイル氏によって提案されたアルツハイマー型認知症および類似の認知症の高齢者とコミュニケーションを行うための方法の一つです。
バリデーションとは元々「確認する、認める、強くする」の意味を持っています。「認知症の人の経緯や感情を認め、共感し、力づける」という意味でバリデーションとという言葉を使っています。
バリデーション療法はアメリカやスウェーデンを中心に1万を超える施設で取り入れられているといわれています。日本国内でも多くの施設で研修などが開催されており、看護師だけでなく、看護補助や介護士に対しての研修でも取り入れられています。
バリデーションとは、コミュニケーション技術です。コミュニケーション技術を活用することにより、患者さんの訴えや行動の裏側を理解しすることが目的となります。バリデーション療法を実践する際に最も重要なのは「傾聴」の姿勢です。認知症の患者さんにとって、「言葉」は中身のないただの「記号」になってしまうといわれています。
会話をしていて、私たちの言葉を聞いているように見えても、言葉を理解しているかどうかは判断が難しくなります。しかし患者さん自身が、自分自身の言葉で話をしている時は、自分の話を「聞いてくれる人」、「聞いてくれない人」の判断はされているのです。まずはしっかりと患者さんの話に耳を傾けることを忘れてはいけません。
患者さんが何かを訴えた時、例えば「誰かに見られている」と訴えた時、「そんなことないですよ。」「本当ですね、見られてますね」という返答をすれば、患者さんの感情を否定したり、誤魔化すことになってしまします。「どんな人に見られてます?」、「どこで見ていますか?」という返答により、患者さんの思いを教えてもらい、感情や気持ちに近づくことが「バリデーション」の基本となります。
感情や気持ちに近づくということは、その訴えの背景にある患者さんの思いの本質に近づくことができるのです。認知症の患者さん行動には全て意味がある行動であるとし、なぜそのような行動をとるのかと言う事を知ることこそが、バリデーションの基本です。そのためにも患者さんに「嘘をつかない」、「誤魔化さない」ということが大切なのです。
バリデーションには「14のテクニック」があります。
こちらの精神状態が不安定では患者さんの心と向き合うことはできません。
まず深呼吸などで気持ちを落ち着けましょう。
患者さんの質問に対して「はい、いいえ」で単純に答えるのではなく、いつ、どこで、誰が、どのように、何、なぜ、(5W1H)などの次に自由に回答できる質問をします。自由に回答できるようにすることで、患者さんの考えや思いを具体的に知りやすくなります。
患者さんの質問を声の大きさや口調も真似て繰り返し質問します。「これはもう必要ない」と言われれば、「これはもう必要ないんですね?」などのよう繰り返しましょう。患者さんは自分が言ったことを確認できると安心できるのです。
視線を合わせ、患者さんを長く見つめることで、安心感を与えることができます。
肩に手を置く、両手で頬を包み込むなど、患者さんに触れるということも患者さんに安心感を与えることができます。
最高、最低、最悪などの極端な表現をしましょう。極端な表現をすることで、感情を発散させる手助けになります。
⑦反対のことを想像させる
「誰かが私のお茶を飲んだ」の訴えに対しては「その人がお茶を飲まない時もあるんですか?」など、否定、肯定でもない、反対の事を想像させます。反対のことを想像させることは若い頃などに困難から立ち直った方法などを思い出の中から導き出すきっかけになります。
会話や質問を過去と結びつけましょう。過去で自分で行っていたこと、考えていたことを再び取り戻すことのきっかけになります。
何を言っているか聞き取れなかった場合などは、曖昧な表現によりコミュニケーションをとることは出来ます。
患者さんの好きな感覚(視覚、触覚、嗅覚など)を見つけ、それを連想させる言葉をコミュニケーションで活用します。好きな感覚を用いることにより、自分を理解してくれているという信頼関係、また好きという感情により、心地よさを与えることが出来ます。
高齢者は高音が聞こえなくなっている場合が多く、低い声ではっきりと話しかけることに注意して会話をすることが大切です。またゆっくりと落ち着いた口調で優しく語りかけることで安心感を与えることが出来ます。
昔好きだった音楽や歌は、過去を思い出させる良い刺激となり、気持ちを落ち着かせることにつながります。
相手の言葉だけでなく、表情や声の大きさ、また徘徊時などは一緒に歩き、立ち止まれば一緒に立ち止まる、などの行動も真似ることにより言葉以外のコミュニケーションを保つことが出来ます。会話と言葉以外のコミュニケーションは、より患者さんの気持ちを知るということ、また患者さんを理解することにつながります。
不穏な行動や言動がある時には、「愛されたい」「人の役に立ちたい」「感情を発散させたい」という人間的欲求のどれに当てはまるか考えましょう。患者さんの行動や言動の理由に知ることにつながります。
患者さんの状態に合わせて、これらの「14のテクニック」を使い分け、患者さんの思いや、行動の本質を知り、不安やストレスを取り除き、患者さんとの信頼関係を築くことにより安心感を与えることができるのです。これがバリデーション療法です。
患者さんの全ての行動や言動には必ず意味がある。自分自身の日々のコミュニケーションを振り返ってみてください。取り入れることができるテクニックは多いのではないでしょうか。
日本国内で「バリデーション療法」を積極的に普及している学会が、「公認日本バリデーション学会」です。2003年に「日本バリデーション学会」は設立され、2006年にはアメリカのオハイオ州に本部を置く、バリデーショントレーニング協会から「公認」を受け、「公認日本バリデーション学会」と名称を変更、日本で唯一公認団体となりました。
バリデーション療法の創設者でもある、ナオミ・ファイル氏を招いでの講演会を始め、全国各地でセミナーを開催しています。また「公認日本バリデーション学会」が認定する「バリデーション・ワーカー」の育成、資格審査を行っています。
「バリデーション・ワーカー」コースは、東京、大阪で開催されており、全6回(各2日の合計12日間)のスクリーニング後、実践実習、議題提出、筆記、実技試験により合否判定されます。バリデーション・ワーカー取得後は、さらに「バリデーション・グループリーダー」「バリデーション・ティーチャー」などスキルアップ資格もあります。
「バリデーション療法」は患者さんの本質を知るテクニックではありますが、これは看護師や看護補助、介護士だけに有効なスキルではありません。在宅で介護をする認知症患者さんのご家族にとっても非常に有効なスキルです。患者さんが在宅で安心して生活をするためにも、またその介護をするご家族にとっても気持ちを理解し、介護するということは大切です。
今後の超高齢化社会に伴い、認知症の患者さんも増加し、さらには在宅で介護を受ける認知症患者さんは急増します。「バリデーション療法」は、病院はもちろん在宅の場でも、看護師だけでなくご家族にも是非実践して欲しいスキルだと言えます。
認知症の患者さん行動には全て意味がある行動であることを今一度認識し、なぜそのような行動をとるのか、その行動の奥にある思いを知ることは、必ずより良い看護につながります。是非実践してみてください!
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