「僕、明日から治療で長いこと個室から出られへんねん。先生、僕のこと忘れるやろ。みんなからも忘れられてしまうわ。」
「ねえ、先生。僕入院して初めて気づいたんだけど、子どもって学校がないと何もすることないんだよね。」
「入院してから誰とも話さない日が続いた。しばらくして分教室(院内学級)には色々な病気で頑張っている友達がいて自分だけじゃないとわかって安心した。」
「やっと退院。うれしい。学校に行ってみんなと遊びたいけど一緒に遊んでくれるかな。みんなに会うの恥ずかしいな。」
これは院内学級に通う子どもたちの声です。
皆さんはこれを読んでどのような事を感じられましたか?
H26 文部科学省 学校基本調査によると、
小・中学校の「長期欠席」している子どもは、約18万5千人
そのうち、約3万7000人(約20%)は「病気」による欠席
「その他」をあわせると約6万人(約33%)に上ることが明らかになっています。
病気だから、学校を休むのは当たり前なのでしょうか・・・?
子どもは「教育」を受ける権利を保障されている
子どもは教育を受ける権利を法律によって保障されています。
憲法 第26条では
「教育を受ける権利」
「教育を受けさせる義務」として掲げられています。
子どもの権利条約 第28条 の条文では
子どもには教育を受ける権利があります。
国はすべての子どもが小学校に行けるようにしなければなりません。
さらに上の学校に進みたいときには、みんなにそのチャンスが与えられなければなりません。
学校のきまりは、人はだれでも人間として大切にされるという考え方からはずれるものであってはなりません。
とされています。
院内学級とは?
皆さんは院内学級という言葉を聞いたことはありますか?
小・中学校の病院内の「病弱・身体虚弱特別支援学級」のことを言います。
・「病弱」とは慢性疾患等のため継続して医療や生活規制を必要とする状態
・「身体虚弱」とは病気にかかりやすいため継続して生活規制を必要とする状態
を言いますが、院内学級はそうした子どもたちの教育を支える病院の中にある学校です。
2008年頃には、日テレ系のドラマ「赤鼻のセンセイ」としてドラマ化や、NHKのプロフェッショナルでも取り上げられていますのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
昭和大学病院の「さいかち学級」の副島先生という方がモデルとなった実話に基づいています。
副島先生は院内学級の目的を次のように話されています。
「大人たちは親切心から、『焦る必要はない。元気になってからまた勉強すればいいよ』と言います。
でも僕は、元気でなければ勉強しちゃいけないのかと言いたい。
病気の子ども達は、親やきょうだいに心配や迷惑をかけていることを気にして、自分のことをダメな人間だとか、役に立たない存在と考えがちです。
しかし、決してそんなことはない。入院中でも楽しい時間は過ごせるし、新しいことに挑戦することもできます。学習を通して、子どもたちにそのことを経験してもらいたいのです。」
因みに、新潟市内には3つの小学校と中学校が医療機関に設置されています。
院内学級での学び
授業は、各市の教育委員会が決めた時間割を基にして行われます。年間スケジュールも
地域にある学校と同様に行われます。始業式・終業式、入学式・卒業式も行われますし、
授業参観もあります。
授業は子どもたちの体調に合わせてベッドサイドで行われることもあり、臨機応変に対応していきます。
名古屋大病院の院内学級(大府特別支援学校提供)<2015.5.21 中日新聞より>
院内学級で学ぶ子どもたちを支える看護の役割とは
冒頭に述べたように、療養中であっても子どもの教育を受ける機会を保証することを意識して関わることがとても大切です。
具体的に見ていきましょう
1.院内学級の教師との情報共有
1)子どもの当日の体調・予定(安静度、前日の状態、治療検査予定など)を教員へ申し送り
子どもの状況にあった学習内容の調整をする。
2) 学習予定時間を確認し、治療や看護ケアの時間を調整する。
教育が行われる時間帯にはなるべく医療処置やケアを入れないことが大切!
3) 緊急時への対応
現在の治療や子どもの状態から、どのようなことが起こり得ることを予測し、対応を的確に伝える
4) 院内学級での子どもの様子を共有する。
2.学習に向けた心の準備・環境調整
1) 朝の準備(更衣・食事・清潔・内服・登校準備など)
登校時間に間に合うように準備を行う。
2) 学習が中断せずに集中できるような環境調整
輸液ポンプの充電の確認、授業時間内に輸液が終了しないか、酸素の延長チューブの緩み、ナースコールの確認など
3) ベッドサイドで行う場合にも同様に学習に向けた環境整備を行う。
4) 院内学級以外での学習環境の確保(特に中・高校生)
3.定期的な多職種ミーティングによる情報共有
子ども、家族(保護者や兄弟)の病気の理解、治療予定、生じる可能性のある副作用など身体症状とその対応、安静度、子どもの発達、性格、興味、得意なこと、心理社会的課題の有無などを多職種で定期的に情報共有を行います。
子どもは退院をすると、前籍校に復学するため、前籍校での病名など個人情報の取り扱い/クラス友人への配慮、学習状況/学習への配慮、教職員(養護教諭、担任、学校長)の理解状況などを確認し、子どもが困惑しないよう配慮していくことはとても重要となります。
そして、各機関(特に前籍校)の担当者と連絡方法、学級通信等の受け渡し方法等、入院している子どもと前籍校の繋がりを確保し続けることが重要です。
長期入院を要する子ども達が、「自分を待ってくれている友達がいる」「退院したら、またみんなと同じ学校に行ける」と社会的な繋がりを意識できることは、自己肯定感・闘病意欲の継続に大きく関与しています。入院中から復学することを意識し、支援体制を整えていきましょう。
【引用参考文献】
文部科学省:H26 文部科学省 学校基本調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/attach/1350731.htm
NHK:プロフェッショナル 仕事の流儀 2011年 1月24日放送
涙も笑いも、力になる 院内学級教師 副島賢和
http://www.nhk.or.jp/professional/2011/0124/index.html
へるす出版:小児看護 2016年10月号
子どもの発達を支える病院内での教育支援・復学支援
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所:病気の児童生徒への特別支援教育~病気の子どもの理解のために~
https://www.nise.go.jp/portal/elearn/shiryou/byoujyaku/supportbooklet.html
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