皆さん、皮膚圧迫がかかっていない箇所にも関わらず、患者さんの皮膚が内出血をしていた・裂傷していたという経験はありませんか?
「スキンテア」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
「スキンケア」ではありません。「スキン”テア”」(Skin Tear)です。
「スキンテア」(Skin Tear)とは
「摩擦・ずれによって皮膚が裂けたり、剥がれたりする真皮深層までの皮膚損傷(部分層損傷)」のことを言います。
褥瘡とは異なり、まだ社会的に周知されていないため、時に“虐待”と間違われることがあります。
「褥瘡」と「スキンテア」の違い
この2つの違いは原因と創の深さにあります。
「褥瘡」は持続的な圧迫とずれが原因で起こり、虚血性の障害であるため、壊死に陥ると骨まで深達することがあります。
「スキンテア」は一過性に強い外力が加わって発生する皮膚の裂傷で、原因は摩擦で起こり、創の深さは真皮深層までと浅いことが多いのです。
スキンテアの発生傾向
現在、全国・施設単位で様々な予備調査が行われており、スキンテアの傾向が少しずつ明らかになってきています。
- スキンテアはあらゆる年代で起こりますが、加齢とともに増加傾向にあり、「65歳未満」と比べると「75歳以上」では3倍以上スキンテアが起こりやすい
- 「大学病院」より「一般病院」で3倍以上スキンテアが起こりやすい
- 下肢よりも上肢に多い
- スキンテア発生者の約6割が抗凝固薬の内服、約2割がステロイドの継続内服をしている
- 発生時の皮膚状態が、皮弁欠損している・出血が示唆されている患者が多い
- 発生場所としては患者居室、次にトイレ・シャワー室が多い
- 発症時刻はAM8~10時が多い(朝、入浴・シャワーし、ベッドに戻る時間帯と考えられる)
発生時の状況をみると、医療用テープ剥離時が最も多く、車いす移乗時・体位交換・寝衣交換の身体支持、ベッド柵や車いすにぶつかる、転倒、寝衣・おむつ・点滴ルートによる擦れ、駆血帯使用時の摩擦などがあり、浮腫による皮膚の脆弱性も起因しています。
これらから、スキンテアはある程度、医療者のケアにより軽減できるものであることがわかります。柵にぶつけてスキンテアが発生している場合、「腕がだるいから」「肩が痛いから」ということが理由で、ポジショニングを検討後スキンテアが減った事例や、発話ができない方が「看護師を呼ぼうと思っていた」という事例もあります。
スキンテアも、他の疾患と同じように「なぜ起こるのか」という視点を持ってケアに取り組むことが大切です。
スキンテア発生時の対応と予防
スキンテアが発生した時の対応、予防は具体的にどのようにすればよいのでしょうか?
現在、エビデンスを集積している最中で、まだケアとして確立されているものはありません。しかし、これまでの実践から、以下のようなことが推奨されています。
スキンテア発生時の対応
①出血を止める
血腫はコットン等を使用し丁寧に除去する
②皮弁を戻す
皮弁が食い込んでいるような場合は、生理食塩水を含ませたガーゼなどで柔らかくして戻す
③創周囲の皮膚を評価して適切なドレッシング材を選択する
- 疼痛や剥離刺激を考慮し、シリコーンゲル粘着のドレッシング材を選択する。
- ポリウレタンフォーム/ソフトシリコン・・・「ハイドロサイトジェントル銀」等
- ドレッシング材の上に剥がす方向を記す。(剥離時に皮弁が剥がれないようにする)
- 皮膚接合テープを使用する場合は屈曲する部位には用いない。
④出血がなければ、頻回なドレッシング交換はしない。
⑤出血を伴っている場合は、創に固着せず、止血効果の得られるドレッシング材を使用する。
- 「アルギン酸塩」を選択し、シリコーン粘着テープを上から貼付し固定する。
- 「アルゴダームトリオニック」はアルギン酸カルシウムに亜鉛とマンガンが加えられているため、治癒促進に最適な湿潤環境を作り、血液凝固を促進させるカルシウムも多く含むことから、止血や治癒を促進させる。
- 皮膚・皮弁が「蒼白」「薄黒い」「黒ずんでいる」場合は、24~48時間以内に再評価をする
スキンテアの予防
①ケア提供者が傷害を与えないようにする
- 爪を伸ばさない
- 指輪などの装具をしない
②1日2回の保湿剤を塗布する
- シャワー・入浴後が最も適切なタイミングである。
- 摩擦が起きないよう、ケア提供者の手袋にも少し水分をつける。
- 保湿剤を静かにポンポンと置くように塗っていく
③皮膚保護材を用いる
④皮膚を摩擦から保護する
- チューブ型の包帯を用いる
- シルクのパジャマやシーツがよいとされる
(褥瘡では綿と比較して発生率が下がることが明らかになっている)
⑤水分を取ってもらう
保湿剤の塗布について
塗布量の目安は、1FTU(1finger-tip-unit)で表されます。
チューブタイプであれば、人差し指の第1関節のところまで(約20~30mm) 、ローション剤であれば、手のひらに1円玉大が手のひら全体に塗る量に相当します。
各部位の塗布量は、
顔面・頸部→2.5FTU
片手両面→1FTU
片足→2FTU
上肢(手を除く)→3FTU
下肢(足を除く)→6FTU
胸と腹→7FTU
背と尻→7FTU です。
塗布した部位にティッシュを付着させて落ちない程度が適量です。
少なければ、薬剤の効力は発揮されません。塗布量は重要なポイントとなります。
また保湿剤を塗布するというケアは、思いの他、時間を要する印象がありますが、1回のケアに要する時間は「1分8秒」それを1日2回です。ケア提供者がタッチングすることで、認知症の患者さまが落ち着かれたという効果も報告されています。
ぜひ日々のケアに取り入れていただきたいと思います。
しかし、スキンテアはいくらベストなケアをしていても必ず予防でいるとは限らず、何をしても起こってしまう場合があります。
スキンテアが発生したことを責めるのではなく、エビデンスをもって最善の方法で速やかに治療すること、予防教育を再度検討することが重要です。
【引用・参考文献】
いま知っておきたい!「スキンテア(皮膚裂傷)」の最新情報:Expert Nurse 31(7) 2015
褥瘡ケア 認定看護師があなたの疑問をズバリ解決!:ナース専科35(7) 2015
スキンケアの技を極める!上達のコツを伝授!:ナース専科34(1) 2014
ケアスタッフ
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