「認知症の父を見るだけでイライラして…我を忘れてしまうほど頭に血がのぼる時があるんです」
「親の面倒を見ているのに自分が親の金使って何が悪いの?」
「事故や近所の方とトラブルが起こると嫌だからね…外出やご近所さんとの交流を禁止にしています」
認知症高齢者を介護する家族の発言で「これって虐待かな」、「どう対応すればいいんだろう」と悩んだケースはありませんか?
身体にアザがあれば虐待とわかりやすいけれど、直接的な侵襲がない場合は判断に迷いますよね。とくに閉鎖的で家族関係が見えにくい家庭であるほど、SOSの発信に気づくのが難しいものです。
そこで今回は、「あの時もっと早く気づいてあげればよかった」と緊急事態を防ぐために、訪問時に使える“虐待の種類・早期発見チェックリスト”と“虐待の程度・対処方法”についてお伝えします。
虐待の種類・早期発見チェックリスト
虐待といっても種類や程度は各家庭さまざまで、状況も刻一刻と変化します。まずは現状を把握するために、“虐待の種類”と“早期発見チェックリスト”を確認しましょう。
「虐待の種類は5つに分類できるので、具体的にイメージしやすいようチェックリストで紹介します。
1. 身体的虐待
2. 介護・世話の放棄
3. 心理的虐待
4. 性的虐待
5. 経済的虐待
上記の5種類の虐待の発見のための“早期発見チェックリスト”は、以下の通りです。
1.【身体的虐待】たたく、つねる、蹴るなどの暴行を加える行為
□ あざや傷がある
□ あざや傷の説明を隠そうとする
□ 人との交流を禁止されている
□ おびえた表情、「怖い」「怒られる」等の発言
□ 「痛い」「家にいたくない」「殴られる」等の発言
□ 支援をためらう、サービスの拒否
この他に、手足を縛る身体的拘束も身体的虐待に含まれます。
2.【ネグレクト】介護・世話の放棄により高齢者を衰弱させること
□ 室内や衣服が不潔(異臭、極度な乱雑、暖房の欠如、汚れたシーツ)
□ 身体が不潔(異臭、汚れた髪、のび放題の爪)
□ 食事がない
□ 医療やサービスを受けていない
ネグレクトは、意図的であるかは問われません。
事情があって介護できなかった場合も、高齢者が劣悪な状態であるなら虐待といえます。
3.【心理的虐待】言語的攻撃や無視、嫌がらせによって精神的苦痛を与えること
□ 急な体重増減、やせすぎ、拒食と過食
□ 「ホームに入りたい」「死にたい」等、自分を否定的に話す
□ 不眠
□ 家族が「早く死んでしまえ」など否定的な発言
この他にも、家族が「ばか(のろま)」といった名前で呼ぶ、大声で叱る、「施設に入れるぞ」と脅すのも心理的虐待に含まれます。
4.【性的虐待】本人が同意していない性的な行為
□ 生殖器等の傷、出血、かゆみを訴える
□ おびえた表情、怖がる、人目を避ける
□ 話すことをためらう、援助を受けたがらない
夫婦間でのドメスティックバイオレンスも虐待に含まれます。
5.【経済的虐待】年金や預貯金の横取り、勝手に使用すること
□ 「お金をとられた」、「年金が入ってこない」、「貯金がなくなった」等の発言
□ 資産と日常生活に落差がある
□ サービスの利用負担が突然払えなくなる、サービス利用をためらう
金銭管理を自分の子供にまかせる高齢者もいますが、日常生活に支障がでる場合は経済的虐待とみなされます。
虐待予防・発見チェックリストは、下記を参考にして作成しています。 ダウロードが必要な方はこちらをクリックしてくださいね。(2019年8月現在)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/understand/teido/pdf/checksheet.pdf
出典)首都大学東京 副田あけみ教授作成の様式を一部修正 東京都老人総合研究所作成
虐待の程度・対処方法
虐待の種類と早期発見チェックリストの次は、“虐待の程度”を3つのレベルに分けて把握します。
1.緊急事態
生命に関わる重大な状況を引き起こしており、一刻も早く介入が必要。
2.要介入
放置しておくと心身に重大な影響があるので、本人の自覚の有無にかかわらず介入が必要。
3.要見守り
心身への影響は顕在化しておらず、虐待か判断に迷う状態。
そして、「緊急事態」「要介入」「要見守り」の対処方法については、以下のようになります。
程度 |
対処方法 |
緊急事態 |
状況に応じて警察や救急に連絡 ショートスティなど緊急避難 |
要介入 |
事業所における対応マニュアルの整備 介護保険サービスの積極的利用 専門職や区市町村のネットワーク形成 |
要見守り |
ケアマネジャーによる家族への助言や情報提供 介護サービスの見直し 地域の見守り声かけ |
東京都パンフレット「高齢者虐待防止と権利擁護」を参考、一部修正
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/torikumi/doc/pamphlet_2009.pdf
認知症と虐待の関係を考えるポイント
最後に認知症と虐待の関係を考えるポイントとして、“認知症高齢者の虐待が多いワケ”と“男性介護者による虐待が2/3を超えている”ということをお伝えします。虐待されている約7割の高齢者には認知症の症状がありますが、これは介護者がよりストレスフルな介護困難場面に遭遇しやすいからです。
「飯を食わせてくれない」と愚痴る認知症の父に、「ご飯はいま食べたばかりでしょ!」と強くあたったり無視をしたりと、介護者が疲れ果てている場面は想像しやすいでしょう。また、介護期間の見通しが立たない不安を抱え、コミュニケーションの取りにくさにイラ立ち、ときには自分自身の老後を投影して恐怖を抱くこともあるでしょう。このように認知症高齢者の虐待は、家族の身体的疲労だけではなく、精神的負担の大きさも関係しています。
在宅介護における虐待者の続柄は、「息子」がもっとも多く、次いで「夫」、「娘」の順です。つまり“男性介護者による虐待が、2/3を超えている”という状況です。これには、①家事や介護に不慣れで負担を感じやすい、②地域と関りが薄い孤立、③失業中で親と同居している、④長年の親子関係の悪化、などの問題が背景にあります。
まとめ
虐待は過去最多で更新し続けている現状があり、虐待が疑われるケースの10%ほどは命に危険がある緊急事態といわれています。認知症ケアにおいてナースが働きかける対象は、患者本人だけではなく家族にも十分な配慮が必要です。
家族の自覚のなさが虐待を助長することもあるので、未然に防ぐためにも家族の認知症への理解を深め、介護負担を軽減できるようサポートできるといいですね。
【参考】
「高齢者虐待防止の基本」 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/1.pdf
2019年8月アクセス
ケアスタッフ
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