内服処方箋の“×(かける)”に注意!
内服薬を患者に正しく投与するためには、医師の処方箋から患者名・薬名・薬用量・投与回数、投与日時を正しく読み取らなければなりません。
まずは、内服薬の処方箋記載ルールを復習してみましょう。
これまで、内服薬の分量は、これまで1日の投与量で記載され、注射薬は通常1回量で記載されていました。このことによる医療事故が多発し、2010年1月に厚労省から「内服薬処方箋の標準記載法」が報告されました。
この「標準記載方法」では、以下の5点が記されています。
- 「薬名」は薬価基準に記載の製剤名を記載。
- 「分量」は1回量を記載。
- 散剤及び液剤の「分量」は製剤量(原薬ではなく、製剤としての重量)を記載する。
- 「用法・用量」の服用回数とタイミングは情報伝達エラーを惹起する可能性を配乗する
ために日本語で明確に記載する。”×3、3×”などではなく、“1日3回朝・昼・夕食後”と記載する。
- 「用法・用量」の服用日数は、実際の投与日数を記載。
手書き指示の場合、特に注意が必要なのは“×(かける)”です。
「ABC錠 3錠 3×食後」の場合の“3×”の意味は、“分3(3回に分ける)”という意味です。1日3錠を3回に分けるので、1錠ずつ1日3回食後服用という意味になります。
一方注射では「DEF注 1アンプル×3 8時 16時 24時」といったように記載します。
3×を1日3回と間違ったエラーが多く報告されています。標準記載法が浸透することで、減少していくと考えられますが、現状では特に注意が必要です。
また、薬名は「商品名」「剤形」「規格」の3要素で書かれていますが、「クラビット細粒10%」と薬品名に○%とついたものがあります。
これは「倍散」と言い、薬物をそのまま(原末)で使用すると非常に少ない量になることから正確に軽量するためにデンプンなど薬理作用を持たない物質を加えて量を増やしたものです。
10%という数字は原薬の割合になります。したがって、この場合は10倍に増やした細粒(10倍散)であることを意味しています。
鎮痛・解熱・抗炎症薬投与時に注意!
非ステロイド性抗炎症薬は強い抗炎症・鎮痛・解熱作用のある「酸性抗炎症薬」と「マイルドな作用の「塩基性抗炎症薬」の2群に分けられます。
「酸性抗炎症薬」には、
ジクロフェナク(ボルタレン)
インドメタシン(インダシン、インテバン)
アスピリン(バファリン)
メフェナム酸(ポンタール)
イブプロフェン(ブルフェン)
ロキソプロフェン(ロキソニン) などがあります。
「塩基性抗炎症薬」には、塩酸チアラミド(ソランタール)、エピリゾール(メブロン)があります。
成人の喘息患者の約1割に酸性抗炎症薬で喘息発作が誘発される患者がいます。代表薬剤の名前をとって、アスピリン喘息と言われています。貼用薬(湿布)でも起こることがあるので注意が必要です。
作用機序の詳細は明らかになっていませんが、酸性抗炎症薬がシクロオキシナーゼという酵素を阻害するために、気管支平滑筋拡張作用のあるプロスタグランディンの合成を抑制し、一方で気管収縮作用のあるロイコトリエンという物質の合成させるためと言われています。
アスピリン喘息は重症なことが多く、発作時には副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を静注します。その際にも注意が必要です。
ソルコーテフ、サクシゾン、水溶性プレドニン、ソルメドロールといったコハク酸エステル型のステロイドではむしろ発作を誘発する可能性があり、リンデロン、デカドロンなどのリン酸エステル型のステロイドを用います。
また小児の解熱鎮痛剤にもいくつか注意が必要なものがあります。
アスピリン(バファリン)、サリチルアミド(PL顆粒)は「15歳未満のインフルエンザ・水痘(水ぼうそう)の患者に対して」、ジクロフェナク(ボルタレン)は「小児のウイルス性疾患(インフルエンザや水痘)」に対して原則禁忌となっています。
因果関係は不明ですがライ症候群(注1参照)との関連性を疑われています。
メフェナム酸(ポンタール)は「小児のインフルエンザに伴う発熱」に対して原則禁忌となっています。厚労省から、インフルエンザ脳炎・脳症の予後悪化に関与する可能性が報告されたからです。
これを受け、日本小児科学会では2000年11月に「小児のインフルエンザ治療に際してはNSADsの使用は慎重にすべきであり、インフルエンザに伴う発熱の場合には、アセトアミノフェン(カロナール)がよいと考える」という見解を公表しています。
現在、ウイルス性疾患に対して、これらの内服薬が小児科で処方されることは殆どありませんが、家庭にある残薬を自己判断で服用し、事故に繋がったケースが報告されています。
インフルエンザの流行する時期には特に注意していきたいものです。
血糖降下剤(糖尿病薬)の与薬に注意! ~砂糖が聞きにくい低血糖~
血糖降下剤は2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)の患者で、食事療法や運動療法で血糖のコントロールが困難な患者のうち、インスリン適応でない患者に投与されます。
この中でも最も注意すべき薬剤は、インスリン分泌作用のある薬剤です。
投薬時間に注意を要するものとして、速効型インスリン分泌促進薬(スターシス、ファスティック、グルファスト)、α-グルコシターゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)などがあります。
通常の食前薬は食前30分前ですが、これらの薬は、食直前(5~10分前位)に服用しなければいけません。また服薬する上では低血糖症状に注意が必要なことは言うまでもありません。
しかし、対処方法として砂糖やブドウ糖を補給しますが、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している人が砂糖ではなくブドウ糖で対処することが必要です。
ブドウ糖は単糖類なのですぐに身体に吸収されますが、砂糖は二糖類ですからブドウ糖になるまで消化されてから吸収されます。α-グルコシダーゼ阻害薬は、砂糖などの二糖類や多糖類の消化のスピードを遅くすることで、食後に血糖値が急に上昇するのを防ぐ薬です。
ですからα-グルコシダーゼ阻害薬を服用している人が低血糖時に砂糖を口にしても、なかなか血糖値が上がってきません。
α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している人は、ブドウ糖を携帯しておく必要があります。
しかし、砂糖が全く役立たないわけではないので、もしも低血糖になったときにブドウ糖やブドウ糖を含む飲み物などが近くになかったら、まず砂糖を口にすることが必要です。
ブドウ糖にこだわるあまり、糖分を口にするタイミングが遅れてしまうのはよくありません。
内服薬での医療事故は注射に比較すると少ないとされていますが、なかには一回の投薬ミスが重大な結果に繋がるものもあります。
看護師は投薬行為のエンドポイントに関わることが多く、こうした知識を持っておくことが必要ですね。
ケアスタッフ
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