2016年度(第105回)看護師国家試験では新卒、既卒者合わせて55,585人の新人看護師さんが誕生しました。合格された皆さん、本当におめでとうございます!
各病院、施設で勤務を始めた新人看護師さんは期待や不安いっぱいの中、新しい白衣に袖を通していることでしょう。
その初々しい姿を見るたびに、自分自身も新人だった頃を思い出し、初心を忘れず頑張ろうと気持ちになります。
新しい仲間を迎えるのは本当に嬉しいことではありますが、大変なのは新人看護師の教育です。どこの施設でも色々と試行錯誤しながら取り組んでおられると思います。
私もこれまで新人看護職員教育に携わり、たくさんの新人看護師と関わってきました。
人が違うので、当たり前ではありますが、毎年違った問題にぶつかり、人を育てる難しさを痛感してきました。
そんな中で今回は新人看護師、また教育担当者が最初にぶつかる壁、「リアリティショック」についてまとめてみたいと思います。
新人看護職員研修の位置付け
平成22年4月より、厚生労働省は新人看護職員研修についてのガイドラインを制定し、その内容を「努力義務目標」として法改正を行いました。
新人看護師に対してガイドラインに準じて、ある程度共通した内容で質の高い教育を行うことを目的にしています。
看護師の教育を法律で定め、国を挙げて取り組むという事は大変素晴らしいことではありますが、この改正の裏には新人看護師の離職率が大きく関係しています。
平成19年度の看護師国家試験では46,000人の新人看護師が誕生しましたが、1年以内の新人看護師の離職率は「9.2%」となっています。
約4,200人の新人看護師が1年以内に離職している計算になります。
この事態に危機感を感じた日本看護協会、厚生労働省はその離職の状況、離職理由などを詳しく分析し、教育体制の充実を目標として、ガイドラインの制定を行いました。
努力義務目標となって以降、各施設ではそれまで以上に新人看護師への教育体制を行うこととなりました。年間を通しての計画、実施後の報告、申請を行えば、新人教育に対してかかった費用に対しての補助金を受け取ることもできます。法改正後の新人看護師の離職率は年々減少傾向にあります。
新人看護師の離職理由とは?
多くの新人看護職員が離職してしまう原因は一体何なのでしょうか。
日本看護協会が200床以上の病院を対象にアンケートを実施しています。
その結果では新人看護師の職場定着を困難にしている要因として、最も多かったのが「基礎教育終了時点の能力と現場で求める能力とのギャップが大きい」と答えた施設は76.2%と一番多く、次に「現代の若者の精神的な未熟さ弱さ」が72.6%となっています。これはあくまでの病院側の回答であり、新人看護師の回答ではありません。
幸いな事に私が担当した新人看護師が離職したことはありませんでしたが、新人教育においてまず注意しなければいけないと感じているのは、入職後初期の段階で直面してしまう問題。「リアリティショック」です。
リアリティショックとは
学生生活を終え、国家試験を合格した新人看護師達は大きな目標と理想を胸に抱き、看護師としての生活をスタートさせます。もちろん自分自身が新人であるという事は理解していますが、実際の臨床の現場で自分の無力さや知識不足を実感することにより、抱いていた目標や理想を大きく否定されてしまう事態に直面します。
理想と現実とのギャップを目の当たりにし、精神的なショックを受けてしまう。これが「リアリティショック」です。
このリアリティショックですが、一度は必ず経験する問題です。
特に理想やプライドが高い新人看護師には大きな問題となってしまいます。
臨床の現場では業務と看護を両立しなければなりません。学生時代は看護のみに取り組み、こんな看護がしたい、こんな看護師になりたいという理想を抱きながら、国家試験合格と同時に、臨床という過酷な大海原に新人看護師はたたされます。
様々な事を経験する中で、理想と現実のギャップを体験することになります。理想や目標がなければ看護師は成長できませんが、新人看護師にとってはその理想や目標が最初の障害になってしまうことがあるのです。
もちろんこのリアリティショックは新人看護師に限った事ではありません。すべての新社会人にその危険はあると言えます。
リアリティショックは新人だけの問題ではない
現在での新人看護職員教育の原則は、教育担当者だけの教育ではなく、部署、看護部、病院(施設)全体での取り組みを目標にしています。
特に教育担当者に関しては、事前の研修、準備を行い、新人看護師同様に様々な理想や目標をもって新人看護師を迎えます。そこにもリアリティショックの危険性が潜んでいます。
個人差はもちろんありますが、新人看護師と実際に向き合い、教育していく中で、自分の思い描いていたプランで進まない、成長に時間がかかるなどの予定とは違う状況に陥った場合、教育者側にもリアリティショックが発生してしまうことがあります。
教育担当者側のフォローもしっかり行わなければ、こちらが退職してしまうという危険性もあるのです。
リアリティショックの原因
ある資料によれば新人看護師のリアリティショックを引き起こす原因は7つのギャップに分類されるとされています。
- 『医療専門職(看護師、医師)のイメージ』と『実際の言動』のギャップ
- 『看護、医療への期待』と『現実の看護、医療』のギャップ
- 『組織に属することへの漠然とした考え』と『現実の所属感』のギャップ
- 『教育施設(大学、養成施設)での学び』と『臨床実践で求められる実践方法』のギャップ
- 『予想される臨床指導』と『現実の指導』のギャップ
- 『覚悟している仕事』と『それ以上に厳しい仕事』のギャップ
- 『自己イメージ』と『現実の自分』のギャップ
いかがですか?これらのギャップを取り除けば、新人看護師のリアリティショックは防ぐ事ができるのです!
しかし、実際にこのギャップ無くすことは不可能です。
リアリティショックへの対応
原因となるギャップを取り除けば、リアリティショックは防ぐ事が出来るかもしれません。しかしながら、そのギャップを取り除くことは不可能です。
では、どうすれば良いのでしょうか。
まずはリアリティショックを理解することからはじめる必要があります。
決して避けて通れないリアリティショックを、新人看護師、さらに教育担当者、そして新人教育に携わるすべての人が理解し、向き合う事が大切です。
私は新人入職時のオリエンテーションや集合教育の時や教育担当者への研修の時に、必ずこのリアリティショックに関しての説明をします。理想と現実にはギャップがあるという事。でも理想や目標を持たなければ、成長できないという事を伝え、必ず訪れるその時の為に事前に準備させます。
そして新人はそのリアリティショックを乗り越えなければなりません。もし一人で乗り越えられなければ、同じ新人看護師や教育担当者、リアリティショックを理解している人達と一緒に乗り越えていけば良いのです。リアリティショックは新人看護師にとって最初に直面する壁ですが、必ず乗り越える事の出来る壁であると言われています。
その壁を乗り越える為に、自分自身がスキルを磨き、知識を身に付けることが、結果的に自分を成長させてくれるきっかけとなることにもつながるのです。
こんなはずじゃなかったと、今実際にリアリティショックに苦しんでいる方もいるかもしれません。しかしそれは誰もが通ってきた道です。そして多くの人がちゃんと乗り越えてきた壁でもあるのです。
自分自身が思い描く理想の看護師像を思い出してみてください。
次にそこに到達するまでに何をやらなければならないのか、何が足りていないのかを見つめなおしてみてください。
最後に具体的に目標決めて、到達するための覚悟をもってください。覚悟を決め、前に進むことが出来れば、リアリティショックは必ず乗り越える事ができます。
簡単な様で複雑で、複雑な様で簡単なリアリティショック。皆さんの周りにいる新人看護師さんは大丈夫ですか?
※引用参考文献
日看管会誌Vol9,No1,2005
新人看護師のリアリティショックの実態と類型化への試み
http://janap.umin.ac.jp/mokuji/J0901/10000096.pdf
ケアスタッフ
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